息抜きこらむ

学校の教室にいたヒメカツオブシムシ

佐藤 日向


 私は埼玉県さいたま市に住む中学生です。今回,教室で見つけた害虫のことについてコラムで紹介させていただきたいと思います。


▼学校の教室にいた虫

図1  教室床面の様子
(学校から写真の掲載許可を得ております。)

 私は昆虫が好きで,自由研究などでも昆虫をたくさん調べています。そのことを知っている友達は,よく虫を見つけると声をかけてくれます。
 中学2年生になった春,休み時間の教室で友達が「こっちに小さな虫がいるよ」と声をかけてきました。教えてもらった窓際にしゃがみ込むと,黒くて小さな甲虫が,床板(図1)のわずかな隙間から這い出てきました。その隙間は乾燥していて,ホコリや給食の食べかすが詰まっていました。そして,その中には,体長5 mmほどの大きさの甲虫(成虫)と,毛深い幼虫がたくさんうごめいていました。
 成虫を一匹捕まえてよく見ると,カツオブシムシの仲間によく似ていました。「カツオブシムシの仲間に似てるから,持って帰って調べてみる」と友達に伝え,急いでビニール袋に成虫・幼虫をあわせて10匹ほど採集しました。
 私は,学校や帰り道で面白い虫を見つけた時のために,ビニール袋を常に持ち歩いています。採集した虫を,教科書で押しつぶされないように注意しながら,鞄に入れて持ち帰りました。
 家に帰り,図鑑やインターネットで詳しく調べてみると,この甲虫はヒメカツオブシムシのようだということが分かりました。初めて発見したので,とても嬉しくなりました。
 その後, 別の虫の調査にご一緒した文化財虫菌害研究所の岩田泰幸さんに確認したところ, ヒメカツオブシムシに間違いないし, 面白いところで見つかっているからウチの研究所のコラムに書いてみたら?と誘ってもらいました。これが, 中学生の私が今回, コラムを書くことになった理由です。
 ちなみに岩田さんとは害虫つながりではなく,水生昆虫という水辺にいる虫の研究仲間で,一緒に遠くまで調査に行ったり論文を書いたりさせてもらっています。
 ヒメカツオブシムシAttagenus unicolor japonicusは,コウチュウ目 カツオブシムシ科に属する体長 3 ~ 5 mm ほどの昆虫です1)。幼虫は,衣料繊維や乾燥食品,剥製,標本などの害虫として知られています。成虫は花の蜜を吸うようです2)。
 岩田さんから,文化財の害虫としても重要で注意が必要な虫であること,今回のような床の隙間からたくさん見つかったことはあまり聞かないので,注意喚起のため,発見した時の様子をくわしく書いてほしいとのことでした。


▼ヒメカツオブシムシが,教室にすんでいるのはなぜか?

図2  教室の状況(学校から写真の掲載許可を得ております。)

 私の中学校は,さいたま市の市街地にある学校で,隣に大きな公園があります。学校の周辺にはたくさんの虫が生息していて,たまに教室の中にハチやガガンボ,ハエ,アブなどが入って来ることがあります。
 教室(図2)は3階にあるのですが,高い所を飛ぶ昆虫のほか,人や物に付着して入ってくる昆虫もいます。今回のヒメカツオブシムシについては,正確な侵入ルートを特定することはできませんでしたが,飛んできたか,付着してきたかのどちらかではないか?と考えています。


 教室にはエアコンが設置されているため,平日の日中は快適な温度に保たれています。
 また,週5回の給食で,食事中に落ちた食べ物のカスに加え,制服や体操着から出る衣類の繊維,髪の毛などが床板の隙間に入り込み,ヒメカツオブシムシの安定したエサの供給源となっているではないかと思います。
 さらに,同級生の掃除の様子を観察したところ,床板の隙間に沿ってほうきを動かしている生徒はいませんでした。そのため,エサだけでなく,ヒメカツオブシムシの本体(成虫や幼虫)が掃除によって掻き出される心配もほぼなさそうでした。
 ヒメカツオブシムシにとって安全な隠れ家になったことで,隙間の中で数が増えてしまったのではないでしょうか。このように,急激な温度変化がなく,豊富なエサがあり,駆除もされない環境が整っているため,ヒメカツオブシムシは,教室内で安定して繁殖できているのだと考えられます。


▼ヒメカツオブシムシを飼育してみた

図3  飼育容器と飼育中のヒメカツオブシムシの幼虫(丸の中)

 持ち帰ったヒメカツオブシムシの成虫数頭を標本にしました。残った個体を飼育・観察したかったので両親に相談したところ,「絶対に家の中で逃がさないこと」を条件に許可を得ました。
 ヒメカツオブシムの幼虫は,私の大切な昆虫標本を食べる可能性があるので,密閉性の高いプラスチック製の容器を用意し,フタに小さな空気穴を開けて飼育を始めました。
 幼虫には,カメやイモリのエサとして市販されている乾燥イトミミズや煮干しを与えました(図3)。幼虫は,これらをよく食べてくれました。
 飼育中のヒメカツオブシムシの成虫を指で軽くつまむと,上翅が僅かにへこむような柔らかさがありました。一方,幼虫はピンセットでつまんでも外骨格がへこむことはなく,非常に硬い体を持っていました。
 そこで,私が飼育中のムネアカオオアリ(大型のアリの仲間)と,自宅にいたアダンソンハエトリ(ハエトリグモの仲間)を用いて,ヒメカツオブシムシの成虫と幼虫に対する捕食行動の違いを観察しました。


<ムネアカオオアリによる捕食実験>

 ムネアカオオアリにヒメカツオブシムシの成虫を数匹与えたところ,アリはすぐに捕獲し巣の中に運び,アリの幼虫のエサにしてしまいました。次に幼虫を与えると,アリは最初に襲いかかりましたが,すぐに諦めてしまい,食べようとはしませんでした。
 幼虫は体が硬く,長い毛に覆われているため,アリにとって捕食しにくいのかもしれません。数日間観察した結果,成虫は全て食べられましたが,幼虫はアリの巣の中で,アリが残したエサを食べて自由に行動していました。


<アダンソンハエトリによる捕食実験>

 アダンソンハエトリにヒメカツオブシムシの成虫を与えたところ,ハエトリグモはすぐに襲いかかり,牙を成虫の上翅に突き刺し食べることができました。次に幼虫を与えると,ハエトリグモはすぐに反応して捕まえましたが,幼虫が激しく暴れたため食べるのを諦めてしまいました。

 この実験結果から,ヒメカツオブシムシの幼虫は,硬い外骨格と長い毛,そして激しい動きによって,アリやハエトリグモなどの小型の捕食者に対する防御機能を持っている可能性があると考えられます。
 この防御機能と,教室の床板の隙間という環境であれば,ヒメカツオブシムシの幼虫にほとんど敵はいないかもしれません。

 ちなみに,この春に採集・飼育を始めた幼虫は,一部は成虫になりましたが,夏が終わってもまだ幼虫のままの個体もいます(2025年9月末時点)。思ったより幼虫の期間が長く驚きました。


▼これからの僕と虫の関係

 私は小さい頃から虫が好きです。中学生になった今も,学校帰りにいつも虫を探しています。
 自宅で飼育している昆虫のエサを採集するために帰り道の公園に立ち寄ったり,カッコいい虫や好きな虫を見つけたら,すぐに持ち帰って写真を撮ったりしています。これが私の日常です。
 しかし,多くの人が成長するにつれて虫への関心を失い,苦手になっていきます。
 小学校低学年の頃,あたりまえのようにダンゴムシを触っていたはずの同級生たちは,学年が上がるにつれて昆虫に触れなくなりました。今では,学校のプールにトンボが飛んできただけで,大半の人が叫んで逃げてしまうほどです。
 でも実は,身の回りにも気づかないだけで虫は生息しています。そして,害虫は身の回りで増えることができるので,気が付いた時には大騒ぎです。
 普段から身の回りにも「ごく普通」に昆虫が生息していると思っていると,ちょっとした虫の気配にも気が付くことができて,今回のように生息地を見つけることもできます。
 また,虫の気配に気が付いたらそれを教えてくれる友達も大切だと思います。
 私は,これからもこの小さな虫の世界に潜んでいる,秘密や魅力を見つけていきたいです。


【引用文献】

1) 丸山宗利・長島聖大・中峰 空(監修)(2022)学研の図鑑LIVE新版昆虫.315 pp.学研プラス,東京.
2) イカリ消毒株式会社. ヒメカツオブシムシ Attagenus japonicus REITTER.
  イカリ消毒 害虫と商品の情報サイト.( https://www.ikari.jp/gaicyu/09010d.html,閲覧日:2025年9月28日).

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