息抜きこらむ

テントウムシの話

岩田泰幸
公益財団法人 文化財虫菌害研究所


 テントウムシは一般的によく知られた昆虫の一つだろう。その単語を見ただけで,丸い体形と短い脚を持ち,せわしなく動き回る姿を想像する方は多いだろうと思う。虫が嫌いだという方にも,比較的「好意的」に捉えてもらっている虫といえるのではないだろうか。


◆由来とイメージ◆

 テントウムシは漢字では「天道虫」と書き,「お天道様の虫」という意味を持つ。これは,太陽に向かって飛んでいくところから,太陽神の使いの虫であると考えられたことに由来しているらしい。
 海外ではlady bugsあるいはladybirdsと呼ばれており,そのまま訳せば淑女の虫となる。このlady は聖母マリアを指しており,聖母マリアが赤いマントを羽織った姿で描かれることが多いことに由来しているとのことである。北米では縁起の良い虫で殺してはならないとされており,指輪やブローチのモチーフとしてしばしば用いられる。
 虫のイメージの良し悪しは国ごとに異なっていることが多いが,テントウムシはどこの国でも「よい虫」として認識されている人気者だ。


◆由来とイメージ◆

 テントウムシには肉食と植物食の種類が知られている。
 肉食の種類であるナナホシテントウやナミテントウは,農作物の害虫であるアブラムシを食べることから,特に農作物の生産者にとっては,益虫として知られている。
 最近では肉食性のナミテントウの中から「飛ばない(飛行能力が低い)」ものを選抜し「生物農薬」としての実用化がすすめられている。あえて「飛ばない」個体を選抜するのは,行動範囲を制限し,農場から逃亡するのを抑えるためである。近年では農薬に耐性を持つ害虫が増えているが,より強力な農薬を開発するよりも,生態系の中にある「食う・喰われる」の関係をうまく利用して環境や生産者の健康に影響がない手法で害虫の被害を抑えることが一般化しており,その一翼を「飛ばないテントウムシ」が担おうとしている。
 
 一方で植物食のテントウムシは害虫として認識されてきた。ニジュウヤホシテントウの仲間はジャガイモ,ナス,ピーマンなどを食べて葉をボロボロにしてしまうため,生産者にとっては厄介な虫である。
 
 また,本来は益虫であるはずの肉食のテントウムシが害虫として捉えられることもある。前述したナミテントウは集団で家屋に飛来し冬越しするため「不快害虫」として駆除される場合がある。ナミテントウが集まりやすい家屋には10 〜 11月くらいになると日当たりのよい壁などに次々とやってきて,天井裏などに侵入し冬越しする。暖房などで屋内を温めていると冬場に動き出すことがあり,集団という見た目や黄色い汁を出すことに人が「不快感」をもよおすというのだ。
 
 益虫とされている種類であっても,人間側の立場や捉え方によっては害虫とされてしまうことも多い。生き物には色々な面があり,当然ながら人間に役立つことばかりで構成されているわけではない。冬越しのためにやってくるテントウムシを見る機会があったら,そんなことを考えながら見てほしい。春には,また農作物のアブラムシを食べて私たちの役に立ってくれるのだから。

 

(いわた・やすゆき 公益財団法人文化財虫菌害研究所)


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