岩田 泰幸
公益財団法人文化財虫菌害研究所
論文を読むことの最大のメリットは,エビデンスに基づいた情報を得られることである。学術論文の体裁を取っているものであれば,研究の背景,方法,結果が明確に示され,それに基づいて考察がなされているはずだ。例えば,インターネットの中から「確からしい」情報を見つける際には,対象の事柄に関する学術論文を検索することで,多くの不確かな情報を振るい落とすことができる。
また,論文末尾には引用文献が明記されるのが普通なので,さらに別の論文へと知識の輪を広げられるのもメリットである(論文と名乗っていながら文献の引用がないものは,学術的な検証がなされていない場合があり,注意が必要である。)。
現在,学術団体や研究機関・大学などが論文を無料で公開していることも多く,インターネットにアクセスできる環境があれば,情報の取得は容易になってきている。しかし,具体的な手法として,どのようにお目当ての事柄が載った論文へ辿り着けばよいのかという点が大きなハードルであろう。
本稿では,主に日本国内を対象として,論文検索時によく使われるウェブサイトや検索方法を一例としてお示しした。論文に触れるための第一歩として参考にしていただきたい。
1.検索サイト
(1)CiNii(URL: https://ci.nii.ac.jp/)
サイニィと読む。国立情報学研究所が運営するデータベースであり,国内で発行された論文や雑誌記事を検索することができる。キーワードを検索窓に打ち込みと関連する文献が羅列される。著作権などの関係により,本文が見られるものとそうでないものがある。リンクが貼られている場合もある。
どういった論文が公表されているのかを調べる際に用いることが多い。
(2)J-STAGE(URL: https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja)
ジェイ・ステージと読む。科学技術振興機構が運営する電子ジャーナルの無料公開システムである。使用方法は前記のCiNiiに近い。オープンアクセスの論文が多く,PDFを無料でダウンロードできるものもある。掲載誌ごとにデータが整理されている。CiNii から本サイトにリンクが貼られている場合もある。
(3)Google Scholar(URL: https://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)
グーグル・スカラーと読む。Google の検索サービスの一種であり,論文や学術誌のデータにアクセスできる。検索方法はGoogleと同じである。論文の本文が見られるかは,公開状況によって異なる。全世界を対象にしているので,日本語以外の言語で検索をかけることもできる。
(4)国立国会図書館デジタルコレクション(URL: https://dl.ndl.go.jp/)
国会図書館が運営するサービスの一つであり,同館で収集・保存しているデジタル資料を検索・閲覧できるサービスである。論文だけではなく,古典籍,官報,歴史的音源,録音・映像関係資料など,公表されているものの種類は多岐にわたる。
2.論文の入手方法
(1)国会図書館遠隔複写サービス(URL: https://www.ndl.go.jp/jp/copy/remote/index.html)
前項1 . の(1)~(4)で検索した結果,該当しそうな論文が見つかったものの本文が未公開となっていた場合,国会図書館の収蔵資料については,本サービスを用いて複写を依頼することができる。利用者登録が必要であり,複写料金など費用がかかる。
学会誌では,発行後に一定期間を経てから論文を無料公開する場合も多いので,そうしたケースに該当する場合には本サービスを利用するとよい。
(2)掲載誌や発行機関名で調べる
検索により,読みたい論文の掲載誌や発行機関が明らかになったら,発行元の団体,大学名,館名などで検索すると,各機関が独自に,自身のウェブサイト等で論文を公開している場合がある。
文化財の有害生物対策関連としては,以下のようなものがある。
①文化財の虫菌害(URL: https://www.bunchuken.or.jp/information/organ/)
当研究所の機関誌に掲載された報文や講座などの一部については,上記サイトでPDFをダウンロードできる。論文タイトル,掲載号,頁についてはCiNii で検索できる。
②保存科学(URL: https://www.tobunken.go.jp/ccr/pub/cosery_s/consery_s.html)
東京文化財研究所保存科学研究センターのウェブサイトでは,刊行物「保存科学」に掲載された過去の論文をPDF でダウンロードすることができる。論文タイトル,掲載号,頁はCiNiiで検索できる。
(3)論文タイトルでもう一度検索
論文タイトルをそのままGoogleなどの検索エンジンに打ち込むと,PDF を見つけることができる場合もある。あくまでも「場合もある」という程度だが,前記の複写サービスに申し込む前に検索してみることも方法の一つである。
(4)研究者名で検索
多くの研究者は自身の研究テーマがある程度決まっているので,探している論文の著者名で検索してみると,こちらで把握していない論文が見つかることも多い。既出の各検索サイトを用いる以外に,以下のような方法もある。
①researchmap(研究者検索URL: https://researchmap.jp/researchers)
リサーチマップと読む。科学技術振興機構が運営する研究者データベースであり,研究者ごとに経歴や論文リストなどを閲覧できる。論文PDF をダウンロードできるものもある。連絡先(e-mail)などを開示している場合もある。
②ResearchGate(URL: https://www.researchgate.net/)
リサーチゲートと読む。本文は英語。研究者向けのネットワークサービスであり,人物ごとに論文など業績が整理されている。論文PDF をダウンロードできるものが含まれる。また,研究者へのPDF のリクエストができる。基本的には全文英語表記であり,一定の読解力は必要である。