岩田 泰幸
公益財団法人 文化財虫菌害研究所
執筆・編集:埼玉県立自然の博物館
発行年:2025年7月12日
発 行:埼玉県立川の博物館
サイズ:A4版
頁 数:79pp.
定 価:1,200円
目 次:0 標本が教えてくれること/1 昆虫のかたちをみる/2 昆虫の仲間分けをみる/3 埼玉県の昆虫をみる/4 昆虫を調べてみる/コラム
文化財分野において、昆虫学を履修しておられない方々に昆虫の話をする身としては、伝える情報の「わかりやすさ」と「正確性」の狭間でいつも葛藤している。専門書に基づいて正確な情報を伝えようとすると、難解な単語や説明に阻まれて、本質を理解してもらうことが難しくなる。翻って、簡単かつ明瞭な説明のみを追い求めると、誤った認識を植え付けてしまうことにもなりかねない。
種類のわからない昆虫が捕まった時に頼りになるのが「昆虫図鑑」だが、図鑑を「使いこなす」には、最低限の昆虫の知識が必要となる。図鑑で種を特定したという検体の相談を受けることもあるが、図鑑の解説を充分に読み下せておらず、結果的に同定(種の特定)を誤っている事例も少なくない。こうした状況の改善には、「昆虫図鑑を使いこなすための前知識」を得る書籍の存在が重要となる。
本書は、「昆虫図鑑を使う前」に一読していただきたい一冊であり、同定する上で必要となる「昆虫の体の構造」や「その特徴」がわかりやすく解説されている。例えば、図鑑や専門書の解説に登場する体パーツがどの部分を指すのか、それがどういった形や構造なのかを「視覚的」に把握できるので、初学者でも取っつきやすい。「視覚的に」と書いたとおり、多くの図や写真が使われていることが、理解の助けとなる。
また、代表的な昆虫のグループを写真入りで解説しているので、昆虫という生物の概観を視覚的につかむことができる。こうした知識のバックグラウンドの拡充は、文化財害虫以外の捕獲昆虫を調べる際のヒントになるところが大きい。
字ばかりで、呪文のような単語が羅列された専門書で勉強するよりも、まずは視覚的に情報を把握できる本書のようなものに触れることが、理解への早道かもしれない。
本解説書のみで昆虫の種類までがわかるものではないが、昆虫図鑑をより効果的に使うための指南書として、図鑑を開く前にお読みいただくことで得られる効果は大きい。
なお、県立博物館の展示解説書であるので、県内の昆虫に関するトピックスについても頁が割かれている。
末尾には、標本を食べる文化財害虫に関する紹介もあり、自然史博物館ならではの視点から、保存環境に関する注意喚起がなされている点もおもしろいところである。
購入に際しては、博物館に来館して館内受付で購入するか、郵送で購入することもできるとのことである。詳細は埼玉県立川の博物館ウェブサイト「展示解説書・図録の入手方法」を参照の上、同館「お問い合わせフォーム」へご連絡いただく形で対応している。展示解説書なので、在庫がなくなり次第、販売は終了する可能性がある点にご注意いただきたい。
▶埼玉県立川の博物館「展示解説書・図録の入手方法」
(郵送での販売受付は、特別展終了後9月16日以降となります。価格は、郵送料や取扱い手数料が加算されます。また、会期中に売り切れとなる場合もあります。)