岩田 泰幸
カビの発生を抑えるためには湿度を60%RH以下に保つことが重要だ。文化財IPMコーディネータの講習でも取り上げられる有害生物対策の基礎知識の一つである。
しかし、室内の湿度を60%RH以下になるよう管理しているにもかかわらずカビが発生したという話を聞くことがままある。そうした時に疑うべき原因の一つが「結露」である。
結露が生じた場所には、水滴の、液体状態の水が存在する。水滴となった水は、多くの虫やカビが利用することができる。すなわち、結露を防ぐことは有害生物対策に直結するといえる。
また、結露が生じた材質は水分の影響で劣化が進行する。資料を良好な状態に保管するという点でも結露対策は大切である。
結露が生じる場所は多くの場合「局所的」であり、かつ、その発生は「一時的」である。この性質がなんとも厄介であり、据え置きのデータロガーなどでは結露発生時の湿度変化を検出できないこともある。
部屋の四隅、物陰、収蔵棚の下や裏側では空気が滞留する。室内の湿度というものは均一ではなく、特に空気が滞留するところで上昇しやすい。
また、データロガーは万能でなく、広い室内の数箇所で得た測定値から、室内全体の湿度環境を完璧に把握することは難しい。
気づかないところで人知れず発生していた結露が可視化するのは、結露の発生箇所で育ったカビを発見した時であることが多い。
ここまで読んでいただいた方に伺いたい。結露が発生する原理を説明できるだろうか?
原理から理解しておくと、どうすれば結露を生じさせずにすむかということもわかってくる。それはカビを発生させないことにも直結するのだから、とても大切な事柄だ。
結露が生じる仕組み
空気には「温度ごと」に溜め込むことができる水蒸気の量に違いがある。空気の温度が高くなるほど溜め込める水蒸気の量は増える。水蒸気を溜めこむための「器」が、温度が高くなるほど大きくなると考えてもらうのがわかりやすいだろう。
その「器」にどれ位の割合で水が溜まっているかを%(パーセント)で表したもの、それを「相対湿度」という。データロガーに表示されるおなじみの数値である。
温度ごとの「器」の大きさは決まっているので、水で満杯になるとあふれる。この溢れたものが「結露」である。つまり、結露とは、空気中に溜め込めなくなった水が目に見える形で現れたものといえる。
では、どういった時に結露が生じるのか。前項の「器」を例に考えてみよう。温度が高いほど水を溜めこむ「器」が大きい。では、その大きな器に、冷風を当てたらどうなるだろうか?大きかったはずの器は、温度が急激に下がると、どんどん小さくなる。「どんぶり」が「茶碗」に、さらに「湯のみ」に、「おちょこ」にと小さくなる。「どんぶり」には沢山の水が入るが、「おちょこ」には少ししか入らない。温度が急激に変化すると、空気中に溜めておけなくなった水蒸気が一気にあふれ出し結露が発生する。
こうした状況は、どこで発生しやすいのか?具体的な例として、日光に暖められたガラス窓にエアコンの冷風がぶち当たっている図を想像してほしい。熱せられた空気が急激に冷えることで結露が発生するという条件を満たしてしまう。そういう場所にカビも発生していることが多い。
さて、ここまで結露の発生条件について解説してきた。しかし、重要なのはメカニズムではなく、具体的な対策の方法だという声が聞こえてきそうだ。そこで次回は、結露を回避するために考えられる対策をいくつか紹介していきたい。
なお、ここで紹介できる事柄はほんの一部であるので、専門の書籍(三浦,2016;三浦ほか,2016)などを読み込み更に理解を深めるとよいと思う。特にこういった物理に係わるお話は苦手意識がある人も多いかもしれないが、基本的なことだけでも押さえておくと、実践的な対策の有効性を考える際の大きな助けとなるので、嫌がらずにまずは一読していただきたい。
【引用文献】
三浦定俊(編),2014.文化財IPMの手引き.64pp. 公益財団法人文化財虫菌害研究所.
三浦定俊・佐野千絵・木川りか,2016.文化財保存環境学第2版.208pp. 朝倉書店.